CBAM(炭素国境調整メカニズム)とは?日本企業への影響と対応手順を解説

2026/10/29サステナビリティ

CBAM(炭素国境調整メカニズム)は、EUへ輸入される対象品の製造時に生じた温室効果ガス排出量に、EU域内製品と同等の炭素価格を反映させる制度です。法的な申告・証書提出義務は、原則としてEUの認可CBAM申告者が負います。一方、日本を含むEU域外の製造者は、EU側が実排出量を用いて申告する場合、製造施設における埋込排出量の算定、検証およびデータ提供を求められる可能性があります。本記事では、対象となる6つの主要分野、適用スケジュール、該否判定からデータ共有までの実務を整理します。

 

CBAM(炭素国境調整メカニズム)とは?


CBAM(炭素国境調整措置)とは
CBAMの仕組みと、制度が導入された背景を整理します。
制度の観点 概要
仕組み 輸入品の温室効果ガス排出量に価格を課す
導入目的 カーボンリーケージの防止と公平な競争条件の確保


輸入品の炭素排出量に価格を課す

CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism)は、EU域外から輸入される対象製品に対し、製造過程で排出された温室効果ガスに応じた価格の支払いを義務付ける制度です。EU域内で製造された製品は排出量取引制度(EU-ETS)によってすでに炭素価格が課されていますが、輸入品には課されていませんでした。この差を埋め、内外の競争条件を公平にする役割を果たします。


導入された背景と目的を把握する

制度導入の主な目的は、温室効果ガス排出規制の緩い国へ生産拠点が移転する「カーボンリーケージ」を防ぐことです。EUが独自の環境規制を強めるほど、規制の緩い域外からの安価な輸入品が増え、地球全体での排出削減が進まないリスクが高まります。CBAMによって域外の製造事業者にも同等の排出削減努力を促し、グローバルな気候変動対策を推進する狙いがあります。

 

対象となる6つの主要分野


現行の対象分野と、今後の見通しについて確認します。
対象区分 具体的な品目
現在の対象 鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力、水素の6分野に属する特定のCNコード
将来の対象 川下製品への拡大案が立法手続中。対象・開始時期は未確定


鉄鋼やアルミニウムなどが該当する

現在、CBAMは鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力、水素の6分野に属する特定の物品を対象としています。これらは、生産が炭素集約的でカーボンリーケージのリスクが高い分野です。実際の該否は、業種名や素材名だけでなく、EUへ輸入される物品のCNコードをCBAM規則Annex Iと照合して判断します。日本からEUへの輸出では鉄鋼・アルミニウム関連企業への影響が想定されますが、日本のEU向け輸出全体に占めるCBAM対象範囲は限定的である点にも留意が必要です。
2026年以降、原則としてEU輸入者が暦年中に輸入する鉄鋼、アルミニウム、セメントおよび肥料の対象品の累計純重量が50トンを超える場合、CBAM上の義務が適用されます。この基準は品目ごとではなく、対象となる4分野の合計重量で判定されます。電力および水素には、この重量基準は適用されません。


対象範囲の見直し動向を確認する

欧州委員会は2025年12月、鉄鋼・アルミニウムを多く含む180の川下製品をCBAM対象へ追加する改正案を提出しました。2026年9月時点ではEUの立法手続中であり、対象製品数、適用開始日および最終的な制度内容は確定していません。理事会と欧州議会では対象製品数について異なる立場が示されているため、企業は今後の審議状況を継続的に確認する必要があります。有機化学品やポリマー等についても将来の見直し対象となり得ますが、追加が決定しているわけではありません。現時点で対象外の製品についても、CNコードと制度改正の動向を定期的に確認することが重要です。
参考:炭素国境調整措置(METI/経済産業省)
 

 

CBAMのスケジュール


段階的に適用される制度のスケジュールを整理します。
期間 企業に求められる義務
移行期間(〜2025年末) 四半期ごとの温室効果ガス排出量の報告
確定期間(2026年1月1日〜) 認可CBAM申告者による年次申告およびCBAM証書の購入・提出


移行期間中は排出量の報告を行う

2023年10月1日から2025年12月31日までは移行期間と位置付けられ、温室効果ガス排出量の報告義務のみが課されていました。この期間中は、EUの輸入者が四半期ごとに、輸入した製品の数量とそれに紐づく排出量を報告する決まりでした。証書の購入による金銭的な負担は発生しませんでしたが、正確なデータを算定・収集する実務プロセスを構築する準備期間でした。


確定期間では年次申告と証書提出が必要になる

2026年1月1日から確定期間が始まり、EUの認可CBAM申告者には、認可、年次申告、CBAM証書の購入・提出に関する義務が適用されます。2026年輸入分の証書販売は2027年2月から始まり、初回の申告・証書提出期限は2027年9月30日です。
認可CBAM申告者は、前年に輸入した対象品の埋込排出量を申告し、EU ETSの無償割当に対応する調整等を反映した数のCBAM証書を翌年9月30日までに提出します。生産国で炭素価格が実効的に支払われたことを証明できる場合は、一定の控除を受けられる可能性があります。証書価格はEU ETS排出枠のオークション価格に基づき、2026年分は四半期平均、2027年以降は週平均で算定されます。
CBAMの確定期間開始を受け、自社や取引先にどのような対応が必要かを早めに整理することが重要です。インターテック・サーティフィケーションでは、CBAM対応に関する制度理解、適用範囲の確認、データ管理体制の整備などについてご相談を承ります。第三者検証については、適用される認定要求および公平性・独立性の要件に従い、算定・コンサルティング業務との利益相反を確認した上で、対応可否を判断します。詳しくは下記ページをご確認ください。
 

 

日本企業が受ける影響は?


日本企業が受ける影響は
制度によって日本企業が受ける事業上の影響とリスクを解説します。
影響の観点 具体的なリスク・対応事項
対象企業 CBAM対象CNコードの物品をEUへ直接または商流を通じて供給する企業
実務負担 取引先からの算定データ提出要求への対応
罰則リスク 法令上の罰金リスクと、調達条件見直し等の商取引上のリスク


EUへ製品を輸出する企業に影響する

日本国内で製造したCBAM対象品がEUへ輸入される場合、日本企業は実務上の影響を受けます。制度上の申告・証書提出義務を負うのは原則としてEUの認可CBAM申告者ですが、実排出量を使用する場合、EU輸入者から製造施設の排出量データや検証済み情報の提供を求められる可能性があります。自社が直接EUへ輸出していなくても、自社が製造したCBAM対象品が商社や取引先を通じてEUへ輸入される場合は対応が必要になり得ます。ただし、鉄鋼・アルミニウム等を材料として含むだけで、すべての部品や完成品が自動的に対象となるわけではありません。EUへ輸入される物品自体のCNコードを確認する必要があります。


取引先からデータ提出を要求される

CBAMの年次申告義務を負うのはEUの認可CBAM申告者です。EU輸入者は、欧州委員会が定めるデフォルト値または実排出量を用いて申告します。実排出量を使用する場合、EU域外の製造者が提供するデータは、EU加盟国の国家認定機関から認定を受けた独立検証者による検証が必要です。実排出量とデフォルト値のどちらが経済的に有利かは、製造施設の排出原単位、適用されるデフォルト値、検証コスト等によって異なります。そのため、日本企業は取引先と使用するデータ、対象期間、提出時期を早めに確認することが重要です。


報告義務の違反で罰則が科される

移行期間(2023年10月〜2025年12月)であっても、報告義務を怠ったり不正確なデータを提出したりした場合は罰則の対象でした。具体的には、報告されなかった排出量1トンあたり10〜50ユーロの罰金が科される規定が設けられており、この額は欧州消費者物価指数に応じて引き上げられます。罰則を負うのはEU側の輸入者(報告申告者)であり、日本の供給元企業が直接EUから制裁を受けるわけではありませんが、排出量データの提供が滞れば、取引条件の見直しや取引縮小といった商取引上の不利益につながる可能性があります。
なお2026年1月からの本格適用期では、CBAM証書の未提出に対して1トンあたり100ユーロ(欧州消費者物価指数に応じて増額)の罰則が科され、支払っても証書の提出義務は免除されません。証書の提出期限は毎年9月30日で、2026年分は2027年9月30日が初回の期限となります。

 

企業が取るべき対応の手順


企業が取るべき対応の手順
実務担当者が進めるべき具体的な対応手順を解説します。
対応ステップ 実行すべき実務内容
1.該否判定 自社製品が対象のCNコードに合致するか確認する
2.排出量算定 欧州委員会のルールに基づき製造工程の排出量を計算する
3.データ共有 EU輸入者と提出時期を合意し、算定・検証済みデータを共有する


自社製品が対象品目か確認する

まずは、自社が製造・輸出している製品がCBAMの対象に含まれるか、EUの関税分類番号(CNコード)を用いて正確に判定します。鉄鋼やアルミニウムといっても、加工の度合いや材質によって対象外となる品目も存在するためです。現行の対象品目リストと自社の輸出品目を照らし合わせ、該当する場合は速やかに算定準備へ移行します。


製造工程の温室効果ガスを算定する

対象品であることが確認できたら、製造工程における温室効果ガス排出量を算定します。単なる企業全体の排出量ではなく、対象製品1トン当たりの埋込排出量を計算することが求められます。算定方法は、CBAM規則および関連する実施規則に従う必要があります。算定対象となる排出量の範囲は製品ごとに異なり、確定期間では、セメント、肥料および凝集鉄鉱石について、直接排出量に加えて電力由来の間接排出量も考慮します。それ以外のCBAM規則Annex II掲載品については、原則として直接排出量のみを算定対象とします。最終的には、対象CNコードと適用される算定規則を個別に確認する必要があります。


輸入者へ期限内にデータを共有する

EU輸入者の年次申告および証書提出期限は翌年9月30日です。EU域外の製造者には一律の法定データ提出期限はありませんが、検証、データ確認および輸入者側の申告準備に必要な期間を考慮し、取引先と提出時期を事前に合意することが重要です。欧州委員会が提供するコミュニケーションテンプレートは義務ではありませんが、必要情報を標準化して共有する手段として活用できます。社内のデータ収集、レビュー、承認、共有までのワークフローを早期に整備しましょう。
排出量データを継続的に共有するには、サプライヤーからの情報収集と算定結果の確認を、毎回同じ手順で進められる体制が欠かせません。インターテック・サーティフィケーションでは、CBAM対応に関する制度理解、適用範囲の確認、データ管理体制の整備などについてご相談を承ります。第三者検証については、算定・コンサルティング業務との利益相反を確認し、適用される認定要求および公平性・独立性の要件に従って対応可否を判断します。

 

算定負担を減らすには?


専門的な算定プロセスを効率化し、担当者の負担を軽減する手法を提示します。
負担軽減の手法 期待できる効果
既存マネジメントシステムの活用 既存手順への算定の組み込みと属人化の防止
算定ツールの導入 データ収集と集計プロセスの自動化・効率化
専門機関の活用 要求事項に沿った体制整備と、独立性を確保した第三者検証


既存のマネジメントシステムに算定業務を組み込む

CBAM対応のために新しい仕組みをゼロから立ち上げると、担当者への負荷が高まります。ISO 14001などの環境マネジメントシステムを運用している企業であれば、データ収集、記録、内部確認、是正処置といった既存の手順に排出量算定を組み込む方法が考えられます。運用ルールや責任分担を既存の管理体系に位置付けることで、属人化を抑え、継続的な算定体制を効率的に整備しやすくなります。


算定ツールで集計作業を効率化する

温室効果ガスの算定をスプレッドシート等で手作業で行うと、入力ミスや属人化のリスクが高まります。これを防ぐには、クラウド型の排出量算定ツールを導入して集計作業を自動化する手法が効果的です。ただしツールが算出した数値がそのまま欧州委員会のルールに適合しているとは限らないため、算定範囲や排出係数の設定が要求事項に沿っているかを別途確認する必要があります。


専門機関の支援で算定精度を高める

CBAMの算定ルールは複雑であり、対象CNコード、製造工程、前駆体、直接・間接排出量、デフォルト値、実排出量の選択などを個別に確認する必要があります。制度に知見を持つ専門機関の支援を活用することで、要求事項に沿った算定・報告体制を整えやすくなります。実排出量を申告に使用する場合は、EU加盟国の国家認定機関からCBAM認定を受けた独立検証者による検証が必要です。算定支援と第三者検証を同一案件で依頼する場合は、公平性・独立性への影響を事前に確認する必要があります。
 

 

まとめ


CBAMは、EUへ輸入される対象品の埋込排出量に炭素価格を反映させる制度です。法的な申告・証書提出義務は原則としてEUの認可CBAM申告者が負いますが、日本企業も対象品の製造者として、排出量データや検証済み情報の提供を求められる可能性があります。まずは、EUへ輸入される物品のCNコード、年間輸入量、商流および使用する排出量データを確認し、取引先と役割・期限を整理することが重要です。
欧州委員会の定めるルールに従って製品単位の埋込排出量を算定し、年次申告に向けてデータを整備する作業には、相応の時間と労力がかかります。通常業務と並行して対応する場合は、既存の管理手順や算定ツールを活用し、算定・報告上のリスクを低減する体制を整えることが重要です。
インターテック・サーティフィケーションでは、CBAM対応に関する制度理解、適用範囲の確認、データ管理体制の整備などについてご相談を承ります。第三者検証については、適用される認定要求および公平性・独立性の要件に従い、算定・コンサルティング業務との利益相反を確認した上で、対応可否を判断します。CSRDや欧州電池規則など、ほかのEU規制への対応とあわせてご相談いただくことも可能です。適切な対応体制を整えたい企業様は、下記ページからお問い合わせください。