食品安全マネジメントシステム(FSMS)とは?目的やメリット、規格の違いを解説

2026/09/18OTHER

近年、食品の安全性に対する社会的な要求はますます高まっています。2020年から始まったHACCPの制度化をきっかけに、多くの食品関連事業者が衛生管理体制の見直しを進めています。その中で、さらに高いレベルの安全性を確保し、企業の信頼性を向上させるためのしくみが「食品安全マネジメントシステム(FSMS)」です。 本記事では、食品安全マネジメントシステムの基本的な内容から、その目的、メリット・デメリット、さらには代表的な認証規格の種類や導入手順について、分かりやすく解説します。  

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食品安全マネジメントシステム(FSMS)とは?


食品安全マネジメントシステム(Food Safety Management System、略してFSMS)は、主に食品の安全を脅かす可能性のある様々なリスク(ハザード)を管理し、安全な食品を消費者に届けるための一連のしくみのことです。個人の努力や注意に頼るのではなく、“仕事のしくみ(マネジメントシステム)”として組織全体で計画的に食品安全に取り組み、きちんとできているかをチェックし継続的に改善していくことを目的としています。 


安全な食品を届けるための管理のしくみ

FSMSは、食品安全に関する方針や目標を設定し、その達成に向けて計画(Plan)を立て、実行(Do)し、その結果を評価(Check)し、改善(Act)していくという「PDCAサイクル」を回すための食品安全管理のしくみ(手段)です。FSMSは小さなPDCAサイクル(HACCPに基づく管理)と大きなPDCAサイクル(マネジメントシステムに基づいた管理)があるのが特徴です。 これらのサイクルを通じて、組織は食品安全に関するリスクを継続的に低減させることができます。 


HACCPとの関係性について

HACCP(ハサップ)は、食品の製造工程において健康に害を及ぼす危害要因(ハザード)を分析し、特に重要な管理点(CCP)もしくはそれに準ずる管理(*OPRP)を定めて継続的に監視することで、製品の安全を確保する製造工程の衛生管理の手法です。 一方、FSMSは、このHACCPの考え方を包含し、さらに組織全体で食品安全を管理するためのマネジメントシステムの要素を加えたしくみです。 つまり、HACCPが製造現場における工程での衛生管理の管理手法であるのに対し、FSMSは経営層の関与や組織全体の体制づくり、サプライヤーとのコミュニケーションといった、より広い範囲を対象としています。 
*HACCPでは通常、重要管理点(CCP)のみですが、ISO 22000ではCCPに準ずる管理として、OPRPを設定することができます。
 

 

食品安全マネジメントシステムの構築が必要な理由


多くの企業が時間とコストをかけてまでFSMSを構築するのはなぜでしょうか。そこには、現代の食品事業を取り巻く環境に対応するための、いくつかの重要な理由があります。 


食品事故のリスクを低減するため

食中毒や異物混入などといった食品事故は、消費者の健康に深刻な被害を及ぼすだけでなく、企業の存続を揺るがす重大な経営リスクです。FSMSを構築し、科学的根拠に基づいて危害要因を管理することで、食品事故の発生を未然に防ぐ体制を整えることができます。 事故を未然に防ぐ予防的なアプローチは、企業の最も重要な責任の一つです。 


取引先や消費者からの信頼を得るため

大手小売業者やグローバル企業との取引において、ISO 22000、FSSC 22000などのFSMS認証が取引条件となるケースが増えています。 認証を取得していることは、自社の食品安全管理体制が国際的な基準を満たしていることの客観的な証明となり、取引先からの信頼を獲得し、海外輸出などのビジネスチャンスの拡大にもつながります。また、消費者に対しても「食の安全」に真摯に取り組む企業姿勢を示すことができ、ブランドイメージの向上に貢献します。 


法令遵守(コンプライアンス)を徹底するため

食品事業には、食品衛生法をはじめとする様々な法律や規制が関わってきます。FSMSの構築プロセスでは、自社に関連する法規制及び*業界団体の基準、顧客要求事項などを特定し、それを遵守するための体制を明確にします。これにより、法規制の要求事項を確実に満たし、コンプライアンス違反のリスクを低減させることができます。 
*FSMSでは法令だけでなく、利害関係者(顧客、取引先、従業員、近隣住民、消費者など)を特定と要求事項(要望などの生の声)を目標などに反映させることを要求されています。 
 

 

食品安全マネジメントシステムを導入するメリット


食品安全マネジメントシステムを導入するメリット
FSMSの導入は、企業に多くの具体的なメリットをもたらします。それは単に安全性が向上するだけでなく、組織運営そのものを強化する効果も期待できます。  


製品の安全性が向上し信頼を得られる

最大のメリットは、製品の安全性が向上することです。FSMSは、ハザードの特定から管理、監視、記録までの一連のプロセスを体系化するため、場当たり的な対応ではなく、一貫性のある高いレベルでの安全管理が可能になります。これにより、製品の安全性の向上は勿論のこと、間接的に製品リコールやクレームの発生率が減少し、結果として顧客からの信頼が向上します。  


業務プロセスが可視化され効率が上がる

FSMSを構築する過程で、原材料の受け入れから製造、出荷までの全工程を見直し、必要に応じて手順を文書化します。これらのステップにより、これまで属人的であった作業や曖昧だったルールが明確になり、「仕事の見える化」が進みます。 結果として、業務の無理・無駄・ムラが削減され、生産性の向上や業務継承の円滑化といった効果も期待できます。  


従業員の食品安全に対する意識が高まる

FSMSは、経営トップから現場の作業員まで、全従業員がそれぞれの役割と責任を理解し、食品安全に取り組むことを求めます。定期的な教育訓練や内部コミュニケーションを通じて、組織全体に食品安全文化や品質重視の風土が浸透し、従業員一人ひとりの意識とスキルが向上します。 これにより、ヒューマンエラーによる事故の防止にもつながります。 
 

 

食品安全マネジメントシステムを導入するデメリット


食品安全マネジメントシステムを導入するデメリット
多くのメリットがある一方で、FSMSの導入にはいくつかの課題も伴います。これらを事前に理解し、計画的に進めることが重要です。  


認証の取得と維持に費用がかかる

認証を取得するためには、審査機関に支払う審査費用が必要です。また、認証を維持するためにも、毎年、維持審査や再認証審査を受ける必要があり、ランニングコストが発生します。 必要に応じて、コンサルタント費用や衛生管理レベルを向上させるための設備改修費用などがかかる場合もあります。(これは組織の実情による。)


システムの構築と運用に工数がかかる

FSMSの構築には、マニュアルや一部必要となる手順書や記録等の文書を作成する必要があります。また、システムの運用を開始してからも、日々の記録管理や内部監査等の検証活動、マネジメントレビューなど、継続的な対応が求められます。 特に導入初期は、要求事項の理解度が高くないため、これらの作業に多くの時間と労力がかかることを想定しておく必要があります。  
 

 

代表的な食品安全マネジメントシステムの規格


FSMSに関する認証規格はいくつか存在しますが、ここでは国内外で広く認知されている代表的な3つの規格を紹介します。 


【国際規格】ISO 22000

ISO 22000は、国際標準化機構(ISO)が発行した、食品安全マネジメントシステムに関する国際規格です。HACCPの原則を基盤としながら、ISO 9001(品質マネジメントシステム)の考え方を取り入れており、フードチェーンに関わるあらゆる組織が適用対象となります。 国際的に最もスタンダードなFSMS規格と言えます。 


【国際規格】FSSC 22000

FSSC 22000は、ISO 22000の要求事項に、前提条件プログラム(PRP)を規格化したISO 22002シリーズと、FSSC財団が決定したフードディフェンス(食品防御)などの追加要求事項を加えた規格です。 世界的な大手食品メーカーや小売業者が加盟するGFSI(世界食品安全イニシアチブ)によって承認されており、特にグローバルに事業を展開する企業からの要求が高い規格です。国際的な側面で見ると、国別のFSSCの認証件数は中国に次いで第2位となっており、食品安全規格の世界標準となりつつあります。


【日本発の規格】JFS規格

JFS規格は、日本の一般財団法人食品安全マネジメント協会(JFSM)が開発した規格です。 日本の食品事業者の実情に合わせて設計されており、事業者のレベルに応じて段階的にステップアップできる構成になっているのが特徴です。HACCPの制度化への対応から、国際取引で通用するレベルまで、幅広いニーズに対応しています。残念ながら、JFS-C規格は日本での認証数が少ないということと、海外での認知度が低いという特徴があります。 
 
項目  ISO 22000  FSSC 22000  JFS-C規格 
策定組織  国際標準化機構(ISO)  FSSC 22000財団 食品安全マネジメント協会(JFSM)
主な構成  マネジメントシステム + HACCP  ISO 22000 + 前提条件プログラム(PRP) + 追加要求事項  マネジメントシステム + HACCP + 適正製造規範(GMP) 
GFSI承認  非承認  承認  承認(一部のみ) 
特徴  国際的に最も普及している基本的なFSMS規格  ISO 22000を強化した、より具体的で厳格な要求事項  日本の食品事業者の実情に合わせた構成 
 

 

食品安全マネジメントシステム構築から認証取得までの手順


食品安全マネジメントシステム構築から認証取得までの手順
実際にFSMSを構築し、認証を取得するまでには、一般的に以下のような手順を踏みます。計画的に進めることで、スムーズな認証取得が可能になります。  


手順0:経営者によるコミットメント

マネジメントシステムを成功させるためには、現場に任せきりにするのではなく、経営者自らが関与する必要があります。経営者は、会社としての「食品安全方針*」を定め、マネジメントシステムに対する権限を持つ「食品安全チームリーダー」を任命します。 
*FSSC 22000では、食品安全方針だけでなく、品質方針、食品ロスと廃棄物削減ロスなどの方針が求められています。 


手順1:適用範囲の決定と食品安全チームの編成

組織内のどの部署や製品をFSMSの対象とするか(適用範囲)を決定します。次に、品質管理、製造、開発、営業、工務などの幅広い、関連部署のメンバーを集めて「食品安全チーム」を編成します。このチームが中心となって、システム構築や運用を推進します。 


手順2:現状の把握・HACCPシステムの構築

組織は、内部の課題・外部の課題・気候変動の課題を挙げます。それを基に、「リスクと機会」に振り分けます。 
また、組織は要求事項に照らし合わせて、自社の現状の衛生管理レベルや業務プロセスを把握し、構築すべきシステムとのギャップ分析を行います。その後、HACCPの考え方に基づき、製品や原材料の特性、製造工程などの認証を取得したい製品の情報を収集したうえで、製品や工程に潜む危害要因(ハザード)を洗い出し、そのリスクを評価します。そのうえで重要な管理点であるCCPやOPRPといった管理点をどのように管理していくのかを計画します。(ハザード管理プラン) 


手順3:マネジメントシステムの文書化

手順2で記載した分析結果に基づき、管理文書を整備していきます。 
まずは、目標を立てるため手順2で挙げた「リスクと機会」の中から特に優先事項の高いものを選択し、「食品安全目標」として立てます。これらを実行するための食品安全計画を立てていきます。 
同時に、ギャップ分析で出来ている文書等を整理し、文書化すべきものを整理していきます。これについては、 
① 運用プロセスの整備:ハザード分析によって、製品や原材料、製造工程などに起因するハザードの発生頻度と重篤度のリスクに応じて、一般衛生管理で整備すべきもの(前提条件プログラム=PRP)とCCP・OPRPで管理すべきものを仕分けしていますので、それらに必要な管理をすすめていきます。必要な場合には文書化を進めて、記録を残すものもあります。 
② 支援プロセスの整備:購買先やサービスの提供先の選定方法や評価方法を決めることや、教育訓練計画や力量の維持管理をどのようにしていくのか、インフラの管理、作業環境の管理等を整備していきます。これらについても文書化が必要なものはしていきます。 


手順4:システムの運用と従業員への教育

作成した文書やルールに従って、FSMSの運用を開始します。同時に、全従業員に対して、構築したシステムの目的や各自の役割、具体的な作業手順などについて教育訓練を実施し、理解を深めてもらいます。 


手順5:検証活動・内部監査・マネジメントレビューの実施

システムが計画通りに機能し、効果を上げているかを確認するためには検証活動が欠かせません。検証活動については、「検証プラン」を決めて、誰がどのようにどの頻度で監視するのかを決めます。また、システムを運用する前に、これから実施することが本当に効果的で、有効性があるかどうかを確認するバリデーション(これからやることの正しさの証明)も大切です。 
また、システム全体が適切に運用されているのかを監視するため、内部監査員による内部監査を実施します。内部監査員は内部監査員としての力量をもっていることが必要です。食品安全チームは、内部監査の結果や検証結果を総合的に分析・評価し、経営層に報告し、今後の改善点を話し合う「マネジメントレビュー」を行います 
その結果を踏まえ、経営層はシステムの更新が必要ないか、継続的な改善を進めていくうえで必要なものを投資する必要はないか、リスクと機会について見直しが必要でないか等を指示していきます。 


手順6:認証機関による審査

システムの運用実績を積んだ後、認証機関(審査会社)に審査を申し込みます。審査は通常、文書審査と実地審査の2段階で行われます。審査で規格の要求事項を満たしていると判断されれば、認証が許可され、登録証が発行されます。 
 

 

まとめ


食品安全マネジメントシステム(FSMS)は、食品の安全を確保し、企業の社会的責任を果たすために効果的なツールです。導入にはコストや工数がかかりますが、食品事故のリスク低減、業務効率の改善、そして取引先や消費者からの信頼獲得など、それを上回る多くのメリットが期待できます。 自社の状況や目的に合った規格を選択し、計画的に構築を進めることで、組織の持続的な成長につなげることができます。この記事が、皆様の食品安全への取り組みを考えるうえでの一助となれば幸いです。 
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