『ゆらぐ時代と、つなぐ力』
(2) 現場から始まる『つなぐ力』

2026/04/10Intertek News(92号)ゆらぐ時代と、つなぐ力

品質・環境・労働安全衛生マネジメントシステム主任審査員/IRCA認定 品質・環境・労働安全衛生マネジメントシステム主任講師   船井 勲 Isao Funai

気候変動とAIの時代に、ISOをどう活かすか

 前回は、揺らぐ時代においてISOマネジメントシステム規格(以下、ISO)が、企業の持続可能性を支える「つなぐ力」になり得ることを述べました。気候変動の進行やAI技術の急速な普及は、企業活動の前提条件そのものを大きく変えつつあります。しかし現場では、「人が注意すれば防げる」「AIがあれば大丈夫」といった考え方が、かえってリスクを増幅させている可能性もあります。
 人は疲労や思い込みからヒューマンエラーを起こします。一方でAIも万能ではなく、誤ったデータや前提条件のもとでは誤判断をします。ISOが目指しているのは、こうした不確実性を個人の能力や注意力、あるいはAIに委ねるのではなく、仕組みとして固定化し、非常時を含めて再発を防ぐことにあります。

気候変動と非常時への備え

 近年の気候変動は、猛暑、豪雨、台風、地震などの自然災害リスクを高め、企業活動の継続性そのものを脅かしています。これらはもはや「想定外」ではなく、「起こり得る前提」として捉える必要があります。
 過酷な環境下や災害時には、通常時以上にヒューマンエラーが発生しやすくなり、判断の遅れや情報不足が被害を拡大させます。したがって気候変動対策としては、環境負荷低減にとどまらず、顧客対応や従業員の安全確保を含めた、組織自身のBCP(事業継続計画)および非常時対応を組み込んだISOの構築・運用が不可欠です。

AI活用と非常時対応の関係

 AIは平常時には効率化や精度向上に大きく貢献しますが、非常時には必ずしも万能とは限りません。想定外の事象や学習データに含まれない状況では、誤った判断を示す可能性があります。そのためAIを活用する場合でも、非常時には人が介入し、判断を補正できる体制を、あらかじめ仕組みとして定めておくことが重要です。
 ISO 14001やISO 45001における緊急事態の特定、テスト、見直しといった準備・対応やBCPの一部として、企業活動をAI任せにしないという意思決定は、人的資源による確実な緊急対応とも言えます。これらを手順や役割分担として明文化しておくことが求められます。

ヒューマンエラーとAI依存を「流れ」で防ぐ

 ISOが優れている点は、平常時だけでなく、非常時を含めた一連の仕組みとしてリスク管理を行うところにあります。
 想定されるヒューマンエラー、AI依存、自然災害による混乱を洗い出し、

  • • 非常時を含めて手順化する
  • • 教育・訓練や訓練型BCPにより定着させる
  • • 実施状況を監視・測定する
  • • マネジメントレビューで有効性を確認する

 この継続的改善により、リスクは個人の問題ではなく、組織として管理される課題になります。

経営と現場をつなぐ固定化の仕組み

 ISOは、平常時・非常時を問わず、誰が対応しても一定水準を保てるよう固定化する仕組みです。
 気候変動による災害リスク、ヒューマンエラー、AI依存を個別の問題として扱うのではなく、BCPを含めた統合的なマネジメントとして整理することが、これからの企業経営に求められています。
 不確実な時代だからこそ、平常時だけでなく非常時にも耐える仕組みを持つこと―それこそが、ISOが持つ本質的な価値だと、私は考えています。